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時間通り飛行機が到着して無事に搭乗すると、愛武と弓枝の二人は、一気にアメリカフロリダディズニー旅行の6日間の疲れが一気に噴出してしまって、グッタリとして死んだように眠りに入ってしまった。だから、そのまま成田空港まで二人は一言も口を利かず、ただグーグーと鼾を掻いて寝ていたのだった。成田空港に着き、東京経由の成田エキスプレスに乗ると東京まで電車の中で、またグーグーと寝てしまったのだ。なので、少し駅を乗り過ごして通過してしまったので、また乗りなおして東京に戻る二度手間になった。

そして、予定通り東京から山手線に乗り換え上野に行きダイヤモンド街に向かった。ダイヤモンド街に入っていくと、最初に目に付いた一軒のジュェリー店に40万ほどのダイヤのピアスが置いてあり、それを見て非常に弓枝が気に入ったようだったので、愛武は、現金で40万を即金で店に渡してそれを購入した。「有難う!愛武、本当に嬉しい!」「いいんだよ!シャネルのスーツのシミの弁償だから気にしないでいいよ!」

スーツケースは成田空港から宅配便を手配しておいたので身軽だったので手荷物は必要最低の必需品が入っているセカンドバッグやショルダーバッグだけで、したがってさっき買ったダイヤのピアスは小さな紙袋一つなので持ち歩くのは楽だ。紙袋を持って歩く途中、どうしても弓枝が今すぐ耳に飾りたいというので、その場で紙袋からダイヤピアスの入った小さな箱を取り出し開けて中からピアスを取り出し耳に飾るのを愛武が手伝った。

「綺麗だよ!とても・・・!」弓枝の耳に今、飾られたばかりの輝くばかりのダイヤのピアスが太陽の光線が照り返して光の反射を周囲に放っていた。その光の一筋が愛武の瞳の中にも突如、飛び込んできた。その途端眩しくて愛武は目がクラクラとしてきた。思わず手で目を覆った。「大丈夫、愛武、目に何か入ったの?」「ううん、ちょっとダイヤのピアスの光が急に目に飛び込んできたから眩しかっただけ、大丈夫だよ!」「そう、それならいいけど・・」

今、目の前でとてもすました様子でダイヤピアスを耳に飾り、上野のダイヤモンド街を闊歩しているブランドスーツを身に纏った美女が自分のフィアンセなのだ。これは、真面目にみんなに自慢できることだろう。自分は、親がちょっとした実業家で所謂ミニチュア版の御曹司だから、多少お金が掛かっても、何とか立派にリードして弓枝のことをきっと幸せにしてみせる。そう、愛武は硬く硬く心に誓っていたのだった。

アメリカフロリダディズニーの旅行の最後の日に―つまり昨日だ―二人が出会ってから初めての大喧嘩をしてしまったが、愛武は、自分も他の男と話したくらいでいきなり怒鳴ったのが悪かったと深く反省しているのだった。そして、これから先は、そのようなことがあってもすぐに怒ったりしないで広い心で穏便に対応して行こうと思っていた。それが、きっとこの先も二人が上手くやっていくための大事な秘訣だと思われた。

上野のダイヤモンド街でダイヤのピアスを買った後、愛武と弓枝の二人は連れ立って目黒の不動産に向かった。その理由は簡単だ、弓枝がフロリダ旅行の最後の日に言っていた“ジックリと落ち着いて寛げる場所”を探しに行くためだった。手持ちのおこづかいは残り100万円くらいに減っていたが、内金だけでも入れておいて足りない分は後からにしようと決めていた。

目黒の不動産屋の受付の社員は、とても対応が迅速で丁寧で対応は文句のつけようがなかった。だが、問題は手付金を払う段階において、出来れば、全額を入れてくれた方が確実だということと、手付金を入れるとキャンセルしても返金できないということだった。結局、ある一つの物件を弓枝が気に入り、それに決めた。―もちろんマンションだ―

そのマンションは二つの部屋があり、ダイニングルームもついていて暖房も完備していた。その上、オール家電で住み心地は満点だ。

「愛武!本当にどうも有難う!50万円も内金を入れたからお金もうないでしょ・・・今日はもうここでここでバイバイしてもいいよ!」愛武がマンションの内金を50万円ピッタリ不動産屋の社員に渡して不動産事務所から外に飛び出すとすぐ後から付いて出て来た弓枝にそう言われた。

「それは自由にしていいよ!まだお金はあるけど、確かにかなり今回の旅行で使ったから大変になっているのは確かだよ!」「じゃあ、シャネルのスーツだけクリーニング屋に出しておいて、私ここから一人で帰るから・・」そういうと弓枝はシャネルのスーツが入っていると思われる紙袋を愛武に手渡すとスタスタとその場を立ち去った。その姿を見届けると愛武も一人家路を辿った。

部屋に帰ると愛武は疲れて倒れる前に、まず部屋中にあるひまわりの花に水をやった。それから、壁の隅の方に纏めて飾り付けてあるひまわりの造花の配置も少し変えてみた。そうすると部屋の感じが中々纏まって見えて感じがよくなった。旅行から帰ってきたばかりで疲れ果てているはずなのに、頑張って部屋の中を整えた。根っから几帳面な愛武の性格がその行動に滲み出ていた。

そして、旅行が終わってもまだ落ち着いてはいられなかった。何と言っても来週はとうとうタレント養成学校のオーディションを受けるから、晴れてスターになれるかどうかの瀬戸際だからだ。スターになれば、まるでひまわりの花のように美しくて優雅な弓枝を堂々とスターの花嫁として迎えることが出来るのだ。

だから、何としてでも頑張ってオーディションを受かるようにしないとならないと愛武は熱く希望に燃えていた。そして、受かるために明日、いや、今日今からでも個人的に稽古をしないといけないと考えていた。愛武は部屋の整理が終わってもすぐ寝巻きには着替えず、なんとレオタードを着用しすっかり稽古着モードに切り替わっていた。

「僕は絶対に来週のオーディションに受かってスターになってみせる!」愛武は部屋の中でハッキリと声に出してそう誓った。

それから愛武は部屋の中でずっとオーディションの稽古に励んだのだ。何と旅行から帰ってきてから稽古まで休憩もしなければ一睡もしていない。飛行機の中で睡眠をとったからその分元気のせいもあるが後でばてる可能性も高かった。だが、愛武はそんなこともおかまいなしでギリギリ体力が続く限りオーディションの稽古を自分の部屋で頑張りとおしたのだ。

愛武の部屋は結構広く8畳あった。そして部屋の中に小さいトランポリンを置いてその上で愛武はレオタード姿で無邪気にジャンプしたり踊って稽古に励んだのだった。“ああ、目が回る、だけど頑張って受からないとスターになれないから耐えないと!”愛武は頭がくらくらして眩暈をしきりに感じ、額には冷や汗が垂れてきて、体もだんだん火照ってきたけど、それでも頑張って稽古に励んだ。

そして、心からこう思った。“マンションの頭金をおこづかいの最後の残りで支払ってきたから、これで何事もなければ当分弓枝に別れようと言われる心配はないな・・・!”そう考えた時、ホッと安堵の色が愛武の顔色に浮かんでいた。やはり、まだ弓枝とお別れするのは非常に心残りが多かったのだ。

さらに言えば、愛武は、アメリカフロリダディズニーの旅行から帰ってきた今でも、まだ弓枝のことがよく分からなかった。未だ弓枝は愛武にとって掴みどころがない謎の多い女性だとしか言いようがなかった。

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