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会えなくても弓枝にお金を支払う男は何も愛武だけではなかった。他にも一度でも弓枝と出会い一目惚れしてしまったり、名刺をすぐ渡してしまったために弓枝からいつ電話が職場にかかってくるか分からない者達は保身のために―誰しも職場は守りたい、荒らされたくないものだから―弓枝の指図されるまま最低一万円以上のお金―万札以外は弓枝は納得しなかったからだ―を指定された銀行の口座に一つ返事で振り込んでいた。

おそらく今でもその作業の輪は―一つの邪悪な煩悩の姿を象徴するような輪廻とでも言おうか―続いていると思う。一緒に出かける訳でもなく、食事をする訳でもなく、ましてや旅行をする訳でもないのに選ばれし者達は―それは最初は少人数だったが日増しに徐々に増えていった―順番に役割分担をし、次は俺が行く、みたいな感じで絶えることなく弓枝の電話一本で会えもしないのに万札を何枚か振り込んでいたのだ。

“また会って欲しい”とか、“今何所にいるの”とか、そんな当たり前の恋人同士のお互いの再会を願う会話やお互いの所在を確認する会話は、そこにはまったく存在していなかった。ただただ、何かを怯えるように、或いは、一種の諦めのような感情が無駄な争いはくだらないと悟らせたのか、ある時期になると集団で計画的にその活動は行われ続けた。

愛武は、一目惚れの初恋で早くも愛の幻想に気づき、不幸になったかのようだが、まだ、心の奥底には熱く滾る想いが残っていたからまだ良い方だ。それは、他の者達に比べたらマシだと言うべきだろうか。生まれつき育ちが良くお坊ちゃま育ちの愛武は、愛の幻想や空しさにに傷つかないですむように環境で守られていた。

つまり、あまりお金の苦労がないから本気で親にお願いすればある程度の資金繰りができたので、ちょっと贅沢好きな美女と知り合っても他の凡人の家庭で育った者達ほど切ない苦しい思いをすることがなかったからだ。また、その上スターオーディションに合格するほど容姿にも恵まれていたために相手が絶世の美女だろうがある程度は気持ちを獲得できた。

何もかもが男として恵まれ、将来も有望な愛武は、弓枝という一人の美女と出会い見事に見る見る間に転落して行った。その表現は少し大袈裟かもしれないが、何もかもそろっている人物でさえ弓枝に出会うと魔物に取り付かれたように己を忘れ溺れていったのは確かだった。

さらに説明を付け加えるなら、弓枝が楓と行動を共にしている時も、休まずその活動は続いていて、弓枝が遊ぶための軍資金がなくなると思い出したように、“白羽の矢”が当たった相手に電話をした。―もちろんそれは大勢の中の一人だ―すると選ばれたものは着信を拒否することは決してなく、必ず快くそれを一つ返事で受け入れ速攻で要求された金額を指定された銀行の口座番号に振り込んでいたのだ。

楓は弓枝と行動を共にする時、その活動を発見するたび、いつも新たな驚きと衝撃を隠しきれなかった。“男って美女に対してはこんなにもお金にだらしないものなのかしら・・”楓は、いつもそう思っていた。そして、そう感じていた。また、その感情は現在においても変わっていない。弓枝と出会いすぐにフィアンセまで昇格できた愛武は、最初は障害など何一つなく順調満帆のように見えた。

だが、いつの間にか気づけば婚約指輪を買わされ海外旅行に行き高価なブランド物をしこたま買わされ、その上二人でジックリとゆっくりと過ごせる空間を借りるとこまで行きながらその後は殆ど毎日朝から晩まで働く羽目になり―次々と続く弓枝の生まれつきの過剰な物質欲のために生じるおねだり攻撃のために資金繰りをするためだった―愛武の生まれつきの花のプリンスの凛々しいその容貌は見る影もなくやつれ果て色褪せていた。

人が変わったようにうらぶれて行く愛武の姿をもちろん親も心配したが、最近は殆どマンションで生活をしていたので親にその姿を見せることもなかったので、大きな干渉は受けずにすんでいた。―強いて言えば一度実家に帰りその変わり果てた姿をチラミさせたら、親が驚いた顔をしたが、その後なんとかうまく誤魔化して顔を合わさないようにして逃げていたのだ―

弓枝は、きっと今頃新しい獲物を見つけてその獲物をまるでメシアのように扱いたくさんの高価な貢ぎ物を献上させたり、オークションの手伝いをさせたり、自分を被写体として写真撮影のカメラマンにしたり、これまた大好きなフリーマーケットの手伝いをさせたりしているのだろう。

事実、愛武が朝も昼も夜も働いている間、弓枝はたくさんのメシアを見つけ奉仕の限りを尽くさせていたのだ。恋愛の延長に結婚はあるというが、最近では、いや大分前から恋愛と結婚は別だという考えも主流になって来ている。愛武は少し古臭いと思う人もいると思うが、弓枝に対しては一目惚れだったせいもあるが恋愛と結婚を一緒に考えていた。

そして、そのための準備を万全に整えるために弓枝に促されるまま高級マンションの一室まで借りたのだが、肝心の弓枝は借りた途端一向に訪れないばかりか―なんだかんだ用をつけては忙しいだの、その前にあれ買って、これ買ってばかりなのだ―酷いと一週間も二週間も連絡がなかった。

愛武から電話をかけても留守電のことが多くなっていた。留守番メッセージにメッセージを吹き込んでもすぐ返事が来なかったり無視をする回数も増えていった。もしも、真面目に結婚まで行かなかった場合、これは所謂結婚詐欺というべきだろう。

だが、今日初めてだが、やっと二人のために借りたマンションに来てくれるという、もう何もかもお仕舞いだとガッカリして決め付けるのはきっとまだ早過ぎるのだ。まだ、未来を期待する余地は十分に残されているのだ。全ては、これからなのだ。これから新しい二人の日々が始まろうとしているのだから。愛し合う二人だけのお熱い日々は今始まったばかりなのだから。

弓枝は予定通り愛武のマンションの部屋に着くとすぐに部屋の壁際にある大きな黒いソファに腰掛けた。ソファの上には薄緑と黄色のクッションがいくつか置かれてある。見ると壁にはスターのオーディションで受かった時もらった記念の額が飾られており、そのすぐ傍の小奇麗な木製の細長いお洒落なスツールの上には記念のトロフィーが置いてある。小さなブロンズ像が掲げられている素敵な栄誉あるトロフィーだ。

「わぁ~!すごい愛武そう言えば、スターになったんだよね!このトロフィーその記念でしょ!カッコいい!」「有難う!君ならそう言ってくれると思ったよ!」「私、いつかスターのお嫁さんになれるんだねぇ~!その日が楽しみ!」「安心してよ、もうすぐだよ!結婚資金ができるまで待てなかったら先に籍を入れたって僕の方は一向に構わないけど」「それじゃ、構わないけど~!出来たらもっと広い部屋に移る時ね!」「ええ、ここを借りるだけでも一苦労だったのに、これより広い部屋がいいの?」「出来たらね、でも無理だったらいいよ!ここでも、でも私の夢は別荘みたいなとこで暮らすことなの・・」

愛武はその時軽い眩暈を感じた。マンションを借りるまでが非常に大変だったのに、“もっと広い部屋が良い”と言われたためだった。さらに少々腹痛も覚えた。弓枝にそう言われたことが結構ショックだったのだ。ダンダンと結婚の話が遠のいて行くそう思うのは愛武の単なる勘違いだろうか。

別荘を一軒借りるとしたら、きっと相当な金額になるだろう。まして買うとなったら莫大な金額になるだろう。もし、それを本気で目指すとしたら朝から晩まで働く生活はこの先永久に続くと思われた。

「君のためだったら・・・」と言い掛けた途端、突然吐き気をもよおし、愛武は台所の流しに慌てて向かった。もう耐えられないくらいに全身に悪寒が駆け抜けていたのだ。気づけば愛武は流しでフィアンセの弓枝の前だろうがお構いなしに“ゲー、ゲー!”とゲロを吐いた。その時に、あまりに慌てたものだから、ブランド物のカッコいいブランド物のスウェットスーツにシッカリ、ゲロがひっかかってしまった。

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