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愛武は待ち合わせ時間の15分前には、もう待ち合わせ場所に到着していた。今日の愛武の服装は、薄茶のトレンチコートで少し水色がかった変わった色のコートだ。暗くて思い水色とでもいおうか。冬の寒空にはそのコートの色がいっそう映えて引き立っている。

愛武は、さっきからずっと溜息をついていた。“まだ、くる訳ないよなぁ~!弓枝は遅刻の常習犯だからなぁ~!”そんな愚痴にも似た文句を愛武は、しきりに心の中で呟いていた。そうなのだ、弓枝が待ち合わせ時間ちょうどに来ることなんて今まで、ただの一度もないのだ。なので、そうぼやいてももっともなお話なのだ。

そして、それは、何も愛武との待ち合わせ時間だけではなかった。フィアンセ―今となっては形だけだが―との待ち合わせ時間もろくに守れない弓枝は、当然ながら他の知り合いや―その中には既に弓枝のメシアに成り下がっている者達もかなりの人数存在した―用事で会う人との待ち合わせ時間も守ることは、まったくと言って良いほどなかった。いや、皆無に等しいと言える。

愛武が現在いる弓枝との待ち合わせ場所は右斜め前方に砂場が見え、そこで子供が二人スコップを片手に楽しそうに遊んでいる姿が見える。その光景をずっとボォ~~ッと眺めている愛武の姿は、阿呆面を扱いているように見えてなんだか少し見っともない感じもする。他にすることもないというのがその理由だ。

「おにいちゃん!」砂場の二人いる子供のうち一人がスコップ片手に愛武に話しかけてきた。二人とも男の子の子供だ、きっと母親が後で迎えに来るのだろう。顔には砂が少しかかって汚れているところがとても子供らしくて愛らしい。「楽しいかい?」愛武は微笑みながら子供にそう返事をした。精一杯、温かい笑顔を送ったつもりだ。

それから愛武は、おそらく今すぐ来るはずもない弓枝をただ待っているだけでは退屈だと思ったので少し子供の相手をすることにした。つまり、暫し、子供二人と一緒に砂場で遊んだのだ。この方何年もしたことのない砂いじりをして遊んだ。久々に愛武はハシャイで楽しんだ。元来、愛武は子供好きで家庭的な温かい一面を持っており、将来パパになったらきっと良いお手本のような父親になるに違いない。

しかし、良い父親として歩む場合の相手、つまり、妻が弓枝かどうかというと少し疑問だ。何故と言われても、困る面もあるが、分かりやすくズバリ言えば、弓枝と付き合うようになって見る見る間に変わり果てた愛武の容貌にもそれは見て取れると思う。

このところ毎日朝から晩まで働きづめだったので愛武の髪の毛は少しボウボウになり、無精髭さえ生えている。毎日のように午前様で睡眠不足のせいだろうか?頬は少しこけ、目の下には、薄っすらと隈ができている。上げマンとか下げマンという言葉があるが、このような状態を見ても弓枝が上げマンの部類だとは到底思えない。仮に一時的に金運がよくなったとしてもそれはまやかしであり、その金の殆どが弓枝に流れて行くだけで金を稼いだ者の手元には雀の涙ほどの僅かな金額しか残らないのがいつものことだからだ。

それは愛武も例外ではなかった。働けど働けど我が暮らし楽にならずとよくいうが、愛武の昼と夜の仕事合わせた給料も給料日になると殆ど弓枝に吸われて無くなってしまっていた。給料日直前になると毎月決まったように弓枝から、あれこれと愛武は、催促やおねだりの攻撃に遭っていた。その金の殆どが弓枝の趣味のエステやお洒落用品、そして当然のことながらブランドの洋服やアクセサリーや他の友人と遊ぶ時の交際費に消えていた。

度重なるおねだり攻撃で、前に弓枝に頼まれて借りた二人でじっくりとゆっくり落ち着ける場所のマンションも時々家賃を払うのも苦しい時があるほどだ。さらに、付け足して言うならば、二人で会うために借りたのに、まだ一度も弓枝が訪れたことがなかったのだ。

だが、今日の待ち合わせで、やっと初めてマンションに来てくれるとのことだ。なので、愛武は今日こそはと少しは期待をしているのだった。きっと何か良いことがあると思ったかどうかというと謎だが。何しろ二人きりで部屋にいたとしても常に主導権は男性のほうでなくて女性である弓枝の方にあり、一緒にいる相手は男性、女性のどちらであろうとまるでメシアのように扱われ、丸腰の侍や赤子同然の状態だったからだ。

それは、分かり切っていても生まれつき美しい物が好きで面食いな愛武は、―まあ、人間誰しも美しいものは好きだ―明らかにメシア同然の状態が待ち受けていようとそれに立ち向かわずにはいられなかったのだ。少しでもいいから一分一秒たりとも美貌の鏡である弓枝の傍にいたかった。なるべく長時間、美と戯れたかったのだ。

子供達と砂場で遊ぶのも疲れ、一人待ち合わせ場所に戻った愛武は、遠くの方に目をやると黒い点が現れ、それがダンダン大きくなると、人の形に変わって行くのをハッキリと確認した。それは紛れもなく弓枝の姿だった。よく見ると右手を大きく上に真っ直ぐ伸ばして左右に振っていた。“私よ!”という合図なのだろう。そしてその姿は間もなく駆け足になっていた。見る見る間に大きくその姿が目の前に登場した。

「愛武!お待たせ!」今日の弓枝の格好はヘルメスのスカーフにシャネルのマークがはいったハーフコートだ。本当に弓枝はシャネルが大好きな女性だ。さらに付け加えるならば美貌があるせいだと思うが弓枝はシャネルがとてもよく似合う女性だ。外出時はシャネルの洋服を着ていることが本当に多い。アクセサリーももちろん好きでシャネルのアクセサリーをしている場合もあるが、最近ではショッピングフレンドの中の一人に買わせた金色のロレックスがお気に入りで今日もそれを右手首少し下あたりに嵌めている。

そのシャネルのロレックスは前に弓枝が接客のアルバイトをしている店で知り合ったお客の男性が買ってくれたものだ。何と、銀座のロレックスの本店で120万円もしたものだ。最初は60万円の時計を買う予定が銀座の本店に行ったら120万円に値段がつり上がったのだった。その男性はご苦労なことに弓枝のために毎月現金ばかりでなくカードも使い総額100万円を軽く買い物に使っていた。かなりな上級クラスのショッピングフレンドだと言わねばなるまい。しかし、彼も時間の問題で会うたび現金を手渡すだけの関係になっていた。酷い時は一緒に旅行に行くわけでもないのに弓枝が他の人と行く旅行の費用も全部銀行振り込みで払っていた。会えなくても大金を弓枝に支払っていた。

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