人を好きになったり、恋をすることは本当に素晴らしいと思う。そして、見事相思相愛になり愛の花を一花も二花も咲かせられたらもっとすごいと思うのだ。
だが、恋愛にも一応、論理や基本があり、すなわちセオリーがあるのだ。著しく、基準や基本を離れて常識を欠いた行動や言動が続き、大きく脱線してしまうと、後でとんでもないことに発展して行くのは眼に見えているのだ。
愛武と弓枝の関係は、今のところお互いが好きあっているから(!?)まだ良いのだ。
だが、問題なのは、そういう仲睦まじい二人のことを指して言っていることではなくて、少し前に書いた、あの弓枝のために渋谷109の前からサラ金事務所に走って行った勇敢な勇者達のことだ。そう、私は彼らのことを“勇者”と呼びたい。一度も心も通ったことも無く、唯一目見ただけで己を忘れ、恋におぼれ、衝動的な行動に走っていた。
人はそれを端的に“一目惚れ”と表現したりしている。この“一目惚れ”の現象を巻き起こすことが大変得意な女性、それが弓枝と思う。
彼らは、その時は、自分の思うまま感じるまま、やりたいように動いたと思う。
しかし、その後が問題なのだ。その時は良いのだが、人間というのは真に愚かしい動物であり、だから動物なのだろうが、時間が経ってから過去を振り返ると自分が取った善行に対して、必ずある種の“見返り”を求める習性があるのだ。
つまり、彼らも人間であるから、その例外ではなかった訳だ。当然のように、あの時の行動に見返りを求めていたのだ。それはもちろん、弓枝のためにサラ金事務所に走った行動のことだ。案の定、彼らは、後々になってそのことに対する何らかの見返りをありとあらゆる手段を尽くして様々な形で要求していくこととなったのだ。
では、どんな形でそれは要求されることとなったのであろう。
その中の一つの例を挙げると、騙された者たちが今、もう日常の日課のようになって生活に根ざしているネット社会の中で頻繁に行われている掲示板活動やチャット活動の中において、偶然出会い、そして偶然会話をした時に、ふと同じ女の話にぶつかり、よく話を聞くとまったく似たような体験を受けている、被害を受けている!?―自ら進んで行った行為が被害と呼べるかどうか少し疑問だ―ことに気づき、そこから自ずと連帯感が湧き、スクラムを組むに至った経路から主に最初は話し合いによってだったが、そのうちそれだけではいつまで経っても何も解決しないことに気づき、暗号や仕草だけで、思い切って突発的な事件を連鎖することによって、そのショック療法によって無理やり、問題の女王蜂的な存在の女性、弓枝を自分達が勝手に決めたアジト―彼らが常日頃、タムロする場所のことだ―に誘い込むことが最良な手段だという結果になったらしい。
その彼らがアジトとするタムロする場所とは一体、どこのことを指すのだろう!?
それは、ズバリ、若い男女や中高年、さらには年配の人にも大人気の3D仮想空間のバーチャルのことだと思う。
確かにその中でも完全に言論の自由が許されている訳ではなく、しっかりバーチャル内に会話ログが残ってしまうのだが、彼らは文殊の知恵で、すぐにメールアドレスを交換してからそちらの方で手早く同じ思想であり同じ体験をした仲間だということを確認する手段を取っていたのだと思う。そして、仲間だと確認が取れた後は、彼らはもう家族同然だった。
お互いの見返りを請求することを誓い、そして協力し合い、辛い時は肩を抱き合い励まし合い―まあ、バーチャルの中だからそんな風に見えるようなジェスチャーを取ったまでのことだろう。何としてでも、あの時使った分の(サラ金から借りた分の)金の金額分は楽しくて良い思いが出来ないと腹立たしいというのが彼らの正論なのだろう。それは、考えてみればもっともなことだと思う。
が、しかし、そのために罪もない関係ない(!?)人物を巻き込むのは絶対に良くないと思うのだ。ただ、その現場をシッカリと目撃した目撃者だからというだけで敵視し、厄介者のように閉じ込め、知り合いまでも調査してそのことをその知り合いに言いはしないかとずっとおっかなビックリで監視している姿は本当に愚の骨頂だと思う。
自分たちがそういう被害者だから陰謀しているということが露見することを何より恐れていたと思える。それがバレレば、芋づる式にあとの問題も全てあっという間にバレテしまうからだと思う。現に既にことが露見して全貌がバレテきているために減給や酷いとリストラになった人もたくさんいるのだ。
私に言わせれば、辛くてもグッと耐えて他の事、主に趣味などに時間を費やして恨みを消化して頑張れば良かったのにと思い、とても残念な限りだ。きっとそのために趣味で稼げる仕事の拡張が大幅にネット内で展開されているのだと思う。恨みを消化するためだと思う。長年の夢が叶えばきっと辛い過去も忘れると思ったのだろう。
それは、ズバリ正解だと思う。現にだんだんと少しづつだが事件は確実に減ってきている。趣味が実益に繋がるという喜びが長年の恨みや怒りを半減したのだと思われる。この分だと弓枝はたくさんの男達の怒りや恨みによる呪いの連鎖の輪の呪縛から少しづつ逃れて行ける可能性が大きくなっているのは確かだ。
―愛武は結局オーディションに受かった、晴れてスターになったのだ―“これで堂々と弓枝のことを我が花嫁に迎えられる”愛武は心からそう思い喜んだ。
だが、この間、アメリカフロリダディズニーの旅行でものすごい大金をいっぺんに使い―殆どが弓枝のために使い果たしていた―しかも、二人がゆっくりとじっくりと寛いで過ごせる場所として借りるためにマンションの頭金の内金に50万を入れたばかりで現在お金はスカンピーに近い状態だった。なので、結婚資金を作らないといけないのだったが、この間あんなにもお金を借りたばかりだから、また青年実業家の父親からお金を借りるのはちょっと辛い物があった。
それに、マンションの頭金の残りをまだ払っていない状態だから、お金を使うのは、そちらの方が先になる。弓枝とのデートも暫くの間お預けで、即効高収入のバイトを昼間の仕事が終わったら少し仮眠を取ってからやらないとならないなと思った。つまり、昼間の仕事が終わったら一度家に戻ってから仮眠を取り、すぐ起きてまた二度目の仕事に入るということだ。そのような仕事は水商売関係のコンパニオンの自宅への車での送りなどの仕事が打ってつけだろう。愛武はその仕事をさっそく見つけて―面接したら即決だった―受かったその次の日から毎日のように昼の仕事が終わったら一度家に戻って仮眠を取ってからまた水商売の店のコンパニオンの送りの仕事をしに働きに出たのだった。
愛武が毎日、昼も夜も額に汗して働いていた時、弓枝と楓は京都に旅行に行ったことがあった。京都に行ったのは温泉に行くのと観光と、あと弓枝が出会い系で約束したカメラマンとの待ち合わせのためだった。それと同時にカメラマンに会う前にどうしても撮影に必要だからと着物を買ってくれる男性と待ち合わせていた。京都では着物を買ってくれる男性とカメラマンに会いに行く用事で殆ど日程が埋まっていた。「ねぇ、この着物より、こっちの着物のほうが素敵で私に似合っていると思わない?それから、この簪も私にすごく気にいっちゃったから買ってよ!」弓枝はしきりに着物を買ってくれる男性にそう言って媚を売っていたのだ。
着物は安くても50万円くらいはする物だ。またそれ以下だと弓枝は嫌な顔をするのが常だった。だから、待ち合わせてくる男性は多くの者達がカードローンを使用していた。つまり、始めてあった身も知らぬ、だけど美しい女性のために大きな借金を平気で背負って買って出ていたのだ。そして、案の定、買い物が終わった後は、必ず弓枝に知らん顔をされて全員捨てられていたのだ。また、会えるとしたら、また高額の着物を買うしかないような地獄のような奴隷男に成り下がっていた。
その者達の恨みも先に書いた者達と同様、こうして毎日のように日本全国各地の人間と瞬時に交流できてしまうネットの3D仮想空間のバーチャルがあれば、そこに終結してしまうのは目に見えていた。
「会うたび買い物だよ!まだ、手も握ったこともないよ、まるで奴隷だよ!ただの貢ぐです!」京都で出会った弓枝が出会い系で知り合ったという男が楓に始めて声を掛けた内容がこうだった。
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