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「来たよ!弓枝ちゃん!」―弓枝が携帯メールで場所を知らせたのだ―

「愛武!良い所に来てくれたわぁ~!弓枝ちゃん、すごく困ってたのぉ~!もう、本当に涙が出ちゃうぅ~!」弓枝はそう言いながらスグサマ来たばかりの愛武に真正面から抱き付いたのだった。愛武の来ている黒いロングコート越しに弓枝の興奮して高鳴る鼓動が響いて来る感じだった。そして愛武と目が合った瞬間、瞳はウルウルとなり見る見るうちに大粒の涙をボロボロと流したのだ。

「どうしたの?弓枝ちゃん、何、泣いているの?何か悲しい事でもあったの?話してごらん、僕らは婚約したんだから隠し事は無しだよ!君の悩みは僕の悩みでもあるんだよ!」「愛武、わ、私ね、私、、、あのね・・・」その後は、しゃくり上げていてハッキリとした会話にならなかったのだ。弓枝はともかく異常に興奮していた。

すると最初に弓枝に応対したあのレジの受付係の店員がスッと前に出て素早く、そして丁寧に事の次第を説明しだした。

「あのぉ、実はですね、こうなってしまったのも私どもの手違いで、こちらにいる女性のお客様の買われた婦人物のバッグの返金処理に手間取ってしまっていて、お待たせしてしまっている状態でして、それでスッカリご気分を害してしまわれたご様子でなんですよ、本当に申し訳ありません!」「あ、はぁ~!そうですか!?まだ時間が掛かるのでしょうか?」「ええ、どうしても、まだ少し時間が掛かってしまいますねぇ~!何しろ大量なレシートの量ですから・・」

レジ周辺には、最初にいた受付係が内線で呼び寄せたらしく、いつのまにか一人ではなく総勢4人の従業員が集まって、総出でレジの蓋を開けて中からレシートを取り出してその記録を追ったり、値札の過去の記録を帳面やその他専用の機械で調べていた。

愛武は一瞬、冷や汗が出たが愛しい若く美しい婚約者の為に、そんな様子を見せて不安がらせてはならないと懸命に堪え平静を保った。

「愛武、ごめんねぇ~!せっかく来てくれたのに~!こんな嫌な思いさせちゃって・・・!」そう言ってから、また弓枝は真っ赤に両目を泣き腫らしてボロボロと涙を流して見せたのだった。

「弓枝ちゃん!落ち着くんだよ!他に困った事はないの?あるなら遠慮しないで言ってごらん!」

次々と瞳から溢れ出して止まらなくなった涙を弓枝はバッグから取り出したハンカチでしきりに拭き取りながら愛武にこう言い放った。「耳当て付きの花柄のニット帽子とウェスタンブーツが気に入ったのがあってどうしても欲しいのよぉ~!」それを聞くとタレント養成学校に通う坊ちゃん刈りの貴公子愛武の瞳がまるでメルヘンの王子様のように凛々しくキラキラと輝いた。

それから弓枝の泣き腫らした瞳を優しく手で覆いオデコを撫でながらこう言ったのだ。「それならお安い御用だよ!今すぐ僕が買ってあげるよ!」

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