そう頼まれれば、後で大騒ぎをされたら困るので楓は必死で庇うしかなかったのだ。
愛武と云う楓の遠い親戚に当たるボーイフレンドが出来て上手く行っているらしいが、この弓枝の悪癖を知ったらどんな事になるのか?想像するに付けてゾッとするのだ。
「あぁ、ねぇ逃げようとしているぅ~~捕まえてぇええ!楓ちゃん!」弓枝の腹の底から出しているような悲痛な叫び声が辺り一面に広がった。
振り返って弓枝の方を見ると、さっきの弓枝の願いを断っていた男の右腕に、な、何と自分の歯で思いっきり噛み付いている最中だった。それは、一瞬の出来事で止める暇も無かった。あるありふれた一日の夕暮れ時の惨事だと表現できよう。
「ぎぇえええええっ!!痛い!何だこいつぅっ、イキナリ噛み付いて来やがった!離れろ!このキチガイ女め!」見ると弓枝に噛み付かれて窮地に陥っている男が弓枝を追い払おうとして右手で弓枝の頭を掴んで振り落とそうと試みていた。
「痛い!助けてぇぇえええ!楓ちゃん!」「何だとぉ!痛いのは俺の方だ!ふざけるなぁ~!」「止めてください!弓枝ちゃんを放してあげて下さい!痛がっているじゃないですか?」「何言っているんだぁ~!このアマ!痛いのは俺の方だぜぇ!こいつが噛み付いて離れないだけだぁ~!おい、何とかしろよぉ~!」「だったらよぉ~!大人しく言う事聞いて、むじんくんでも何でもいけよぉ~~!聞いてんのかぁ~この野郎!」気づけば、いつの間にか、弓枝は顔を上に上げ男の胸倉を掴んでいた。
「な、なにぃ~~!」男も結構気が強いらしく、頑張って言い返していたが、その途端、みるみる間に弓枝に顔を引っ掻かれあっと云う間に顔面が血の海と化してしまったのだ。
「ぎゃぁああああ~~何するんだよぉ~~痛いよぉ~~!」すると大の大人の男がその場でしゃがみ込んで大声で泣き出してしまったのだ。
「おい、許して欲しかったら、今からむじんくんに行けよ!なっ!おい、こら!聞いてるかぁ~!」「わかったぁ~~行くよ、行くから、俺から離れてくれよぉ~!」
男は逃げる気力も無くなったようにそのまま弓枝と楓の二人に両脇を挟まれ腕を掴まれた状態で、むじんくんに向かったのだった。そして、弓枝と楓の二人に後ろからジッと睨まれた状態でむじんくんの自動契約機から10万円を下ろし、その場で弓枝に手渡したのだった。
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