「うぅんとねぇ、それはねぇ、まあ、今から一時間半後にマルイの裏口に来てくれればわかるからさぁ~!」「えぇ!でもさぁ~、弓枝ちゃん!先に聞いて置いた方が安心するんだけどなぁ~!」
そう楓がさらに問いかけると弓枝は、楓の言葉をバッサリ切り捨てるように「いいの!詳しい事は現地で話すからさ、とにかく今から一時間半後にマルイの裏口に来てね!約束だよ!」と言い切ると、そのまま電話を切ったのだ。
途端に楓の携帯電話はプツッと音信が途絶えた。
「本当に、弓枝ちゃんったらぁ、いつも強引なんだからぁさぁ・・・さて、行くか!」
楓が、いつもの事で馴れてはいるが、相変わらずの弓枝の一人で突っ走って行く暴走的な行動に対して半ば呆れて、そう呟くと、暫く部屋の片づけをしたりして時間を潰してから待ち合わせに間に合う時間までに外出着に着替えて適当なバッグを持ち外に飛び出しマルイの裏口に向かったのだった。
マルイの裏口に着くと珍しく弓枝の方が先に着いていた。だが一人ではなかった。弓枝は見知らぬ男と二人でマルイの裏口の前で立ち話をしていた。
「あっ!楓ちゃぁん!待ってたんだよぉ~!いい所に来てくれたねぇ~!ねぇ、楓ちゃんからもこの人にお願いしてよ!私が、支払いに困っているから助けてあげて下さいって!」
また、いつもの弓枝ちゃんの病気が始まった、とこの時、楓は思ったのだった。
弓枝は殆ど毎日お金やアクセサリーや洋服や家具や電化製品を手に入れる事しか頭にないような子で、男の顔を見ると必ず物やお金を請求する癖があったのだ。
それはもう心の病だとしか思えない状態だった。しかも、いつも要求する額が半端じゃないのだ。今日だってきっと、とてつもない金額に決まっているのだ。
「ねぇ!聞いているのぉ~!早く頼んでよ~!無視すんなよぉ~!楓!?」
弓枝の声が少し抗ってきた、こうなったらもう一刻も早く要求を呑んでやらないと収まりの着かない事になるのは目に見えていた。なので、慌てて楓は弓枝が交渉中の出会い系で呼んだらしい男にこう言い放った。
「お願いします!弓枝ちゃん、本当に困っているから、お金を何とか出してあげて下さいよ!本当に天使みたいにいい子だから助けてあげて下さいよ!」すると男はキッとした表情で返答して来た。
「だけど、10万円はとてもじゃないけど無理だなぁ、俺しがないサラリーマンだぜぇ!」「だったら今持っているだけでいいから出して下さいよぉ!それに、近所にむじんくんがあるから、そこに行けば今からでも下ろせるよぉ~!お願いしますぅ~!ああぁ!楓ちゃんからも何とか言ってぇええ!」