「えっ!愛武、それって、もしかしてプロポーズ!?」「うん、そうだよ、僕はどうやら君の瞳の虜になったようだよ、君無しの人生はもう考えられないよ!」
黒いタキシード姿の愛武の燃えるような熱い眼差しが弓枝をジッと見詰め、それと同時に自分の席から立ち上がりテーブルから大きく身を乗り出し両腕をテーブルの上に垂直に真っ直ぐ立てて顔だけしっかり前に上げ弓枝に熱視線を向けていた。
弓枝の頬が綺麗なピンク色に火照って嬉々としているのが感じられた。其れほどまでに愛武のプロポーズが嬉しかったのだろう。気づけば、弓枝は愛武の真っ直ぐ立てられた右腕のタキシードの袖の先を右手で摘んで握り締めていた。
「ねぇ、愛武、本当にこんな私でいいの、大丈夫なの?」「何を言っているんだ、僕が決めた事だよ!君は僕が人生を共に歩もうと決めた、この世でたった一人の相手だよ!」「嬉しい、愛武、私、こんなに嬉しい事って、生まれて初めて・・・」そう言うと弓枝は突然の大きな喜びで興奮のあまり顔を赤らめて大粒の涙をボロボロと流しだした。そして、バッグからハンカチを取り出し目に当てたのだ。
「ここを出たら僕の家に来てくれるね、家族を紹介するよ!」「愛武の親に会えるのね、嬉しい!、でもね愛武、その前にお願いしたい事があるのいいかなぁ?」「なんだい、言ってごらん」愛武は既にきちんと自分の席についていた。
「前から結婚する前に料理学校に行きたかったんだけどお金が無くて行けなかったの、相談に乗って欲しいのよ」「勿論、相談に乗るよ、だって僕の未来の奥さんだもの」「“ケイコとマナブ”買ってその中から選びたいの」「分かった、すぐ買いに行こう!」「入学金が結構かかると思うのよ」「大丈夫だよ!僕が何とかするからね!」そう言いながら、またもや坊ちゃん刈りの貴公子愛武のザマス風伊達メガネがいかす感じでキラッと光ったのだ。
それから、すぐに愛武と弓枝の二人は百貨店の清月堂本店を背に一路、“ケイコとマナブ”があると思われる本屋目指して進んだのだった。目指す本屋は同じ百貨店内の7階にあった、つまり今いる階のすぐ下だ。その本屋の名前は“啓文堂書店”だ。