次の日の出かける前に愛武は父親に会いに行く為に父親がいる書斎に向かった。書斎の扉を開くと、そこには黒い縁取りの臙脂色の天鵝絨のガウンを着た父親の姿があった。大きな黒いソファに腰掛けて口には細い煙の立っている巻き煙草を銜えていた。
「おお、来たか、そろそろ来なかったら、こちらからお前の向日葵の花だらけの部屋に行こうと思っていたぞ!」
そうなのだ、愛武は、向日葵の花の種を買わずに最初から向日葵が咲いている状態の成長しきったものを花屋から買い求め部屋に飾ったのだった。つまり、種の状態から成長するのを待つのが嫌だったのだ。勿論、その向日葵の中には造花もあった。
「言え、約束どおり、こちらから伺いました!」非常に礼儀正しく低姿勢に愛武が父親に会釈をした。父親は、口に銜えている煙草を灰皿に押し付けて擦り付けて煙を消す仕草をしてから、愛武の方に向き直った。
「それじゃ、今から行くのだな、彼女の所へ、よしよし、今、約束どおり、金を渡すから、ちょっと待ちなさい!」そう言うと書斎のちょうど右端の本棚の奥のほうの隠し扉のような場所から、金庫を取り出して来て、ガチャガチャと弄ってその蓋を開けた。そして、金庫から三つのの万札の束を取り出すと、腰掛けているソファの前のテーブルの上に置いた。
「さあ、これを持っていきなさい!」「本当に有難うお父さん!」「いいのだよ!息子よ頑張るのだよ!」「うん、僕、頑張るよ!」
愛武はこんなに嬉しい事は生まれて初めてだという笑顔満面で目の前のテーブルの上から三つのの万札の束を掴み取ると、その場から猛ダッシュで愛する女性、弓枝との待ち合わせの場所へ向かったのだ。“さあ、早く行かなくちゃ!”愛武は、そう思いながらも遅刻好きそうだった弓枝に待たされるかもとチラリと考えたりもしていた。例え、そうであっても恋する愛武は何時間だって弓枝が起きてくるのを待つつもりだったのだ。
今日の待ち合わせ場所は、弓枝の実家ビル前だった。
“いきなりプロポーズなんてしたら驚くだろうな!”そんな事が愛武の頭を過ぎっていた。だが、間違っても断られる事はないだろうと愛武は心から信じて疑っていなかった。
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