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楓が急に帰りたくなった原因はもう既に深夜の1時になっていたと言うのもその一つだが、夜の9時過ぎから現在に至るまで、色々な事があったので疲れてしまったのだ。と言ってもドンキホーテ新宿東口店でルイヴィトンのセカンドバッグを買ってから、北新宿のスーパーマイルでお鍋の具材を買い込んで弓枝の実家ビルの3階で作って食べただけだったが。

それでも楓なりに結構、気を使ったのでスッカリ心身ともに疲労困憊してしまったのだった。特に買い物の時は、男が突然怒って文句を言いはしないかとそればかりが心配で可也、気を揉んだのだった。

弓枝の実家ビルの近くの大通りからタクシーを捕まえてから自宅に帰ると楓は、直ぐに外出着からスウェットの上下の部屋着に着替え、自分の部屋の机に向かった。今日の外出着は、地味目の紺のブレザーとブラウスと、同じく紺色のスカートだった。机の前の椅子に腰掛けると、その引き出しから薄緑色の分厚い日記を取り出した。

それは間違いなく、この間の楓の誕生パーティーで幼馴染の愛武が楓に“これに毎日の出来事を書き留めて置くと良いと思ってね!多分この先、色んな事があると思うからさ・・”と言ってもう一つのプレゼントの綺麗な瑠璃色のオルゴールと共にプレゼントして来た物だった。

確かに愛武の言うとおり色んな出来事は起きたのだった。と言うか、今日の出来事は、これは序の口だと言っておこう。

ともかく、楓は愛武から貰った日記帳に今日の出来事を書こうと思い立ったのだった。机上のペン立てから黒い0.5mのピンペンを取り出すとスラスラと何かを日記帳に書き留めだした。

それは、このような内容だった。

『今日は夕方の5時過ぎに弓枝ちゃんの家に遊びに行って、それから伝言で沢山男の人を呼んで待ち合わせをしてその中から来た二人の男性と新宿東口のドンキホーテで弓枝ちゃんのお誕生日プレゼントを買って、その後北新宿のスーパーマイルでお鍋の具材を買って弓枝ちゃんの家で食べました。とても楽しかったです。だけど、本当は今日は弓枝ちゃんの誕生日ではありませんでした。だから何か少し複雑な気分でした。○月×日○曜日深夜1時20分』

そして日記帳を書き終えると、楓は“はぁ~っ!”と深いため息を一つ漏らしたのだった。やはり、思い出しても何かこう腑に落ちない点があるからだろう。

それは、何故、今日が弓枝お誕生日じゃないのにお祝いをしてくれる人を募集したかと言うのがまず一点と、もしも例え本当にお誕生日だとしても、または、そう思い込んだにしても何もあんな給料半月分程もする高額のプレゼントを初めて知合った女性にしてしまう男性の心理もよく分からないと言う点だった。そのことは、考えれば考えるほど、深い悩みの淵に嵌ってしまいそうなループの法則にも似ていた。

だが、その悩みからも、きっと、もうすぐ開放されるに違いなかった。少なくとも楓には、その事が分かっていた。だって、幼馴染の坊ちゃん刈りの貴公子、愛武が弓枝の事を選んだのだから、後は大船に乗ったつもりで全てを愛武に任せればいいのだから。

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