「本当だね、似合うね!」上下薄いグレーのスーツの男が弓枝の方を振り向いて、そう答えた。
弓枝が良いなと言っている商品は、有名ブランドのルイヴィトンのセカンドバッグだった。ポシェット・ガンジュという商品名で値段のほうは、税込価格¥81,900¥が75,000の特価で売られている物だった。腰に巻きつけるベルトが付いていて大変使い勝手が良いように見える。
本当にドンキ・ホーテという有名激安ディスカウントショップは、良い品物が安く手に入る便利な場所だ。
「ねぇ、私、これがいいなぁ~!」弓枝は、“似合うね!”と言ってくれたくらいだから脈があると思い、上下薄いグレーのスーツの男の方を振り向き、右手の指先に自分の髪の毛をクルクルと巻きつけ髪の毛を弄びながら甘えるような仕草で媚を売りそう強請った。指先に自分の髪の毛を巻きつけるのは、何か人に物を頼んだり、強請る時に弓枝が必ずと言って良いほどする18番の仕草だった。しかし、幾らなんでも、ただのしがないサラリーマンが¥75,000もの高価なプレゼントを即金で買うのは大変な事だった。
するともう一人の濃い緑で袖がクリーム色のスタジアムジャンパーと下が薄いブルーのジーンズの男が「わぁ~マジ!こんな高い物が欲しいの!?まいったなぁ~!」と素直に現在の真情を吐露した。「ええっ!私、どうしてもこれが欲しいなぁ~だって気に入っちゃたんだもの・・・ねぇねぇ、楓ちゃんからもこの人達にお願いしますって言ってよ!」そう言われると、しばらく悩んだような表情をしていたが、ふと決断をしたように楓がこう言い放った。「お願いします!弓枝ちゃんのお誕生日プレゼントに、この商品を買って上げて下さいよ!」
もし、ここで協力を断れば、後でならまだしも、きっと直ぐにこの場でギャーギャーとキチガイのように喚き出すのは目に見えていたから、楓は、この場でそう言うしかなかったのだ。それほど弓枝と言う女は日頃から物質欲が強く、しかも可也の我侭でおまけに強情だったので楓も、あらゆる場面で随分と苦労していたのだった。ただ、明るくて素直で活発で決して物怖じしないのが誰もが認める弓枝の取り柄であり長所だったのだ。まあ、その事に関しては、ここでは簡単に触れるだけにしておこう。また後に機会があればお話したいと思う。
「俺、カードでなら買えるよ!」何かを察したように上下薄いグレーのスーツの男が慌てたように弓枝の方を向いて、そう発言したのだった。
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