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約束の時間ピッタリくらいに弓枝の実家ビル前に着くと、愛武は直ぐにビル一階の入り口から階段を上って行った。

そして弓枝の部屋がある二階に着くと、勢いよく扉を開けて「こんにちは!愛武です!弓枝さん、居ますか?」と大声で叫んで弓枝を呼んだ。すると少ししてから奥の方から「入ってきて!」と弓枝の声がした。

愛武は、今日これから弓枝に言おうとしている事を考えながらドキドキわくわくしながら扉の奥へと足を踏み入れた。無論、愛武が弓枝に言おうとしている事は、“プロポーズの言葉”だった。初めて会った時から今日まで愛武は、一時も弓枝の事を考えなかった時はなかった。心の中にはいつも燃え上がるような熱い弓枝の思いが溢れているのだった。

愛武の今日の出で立ちは黒いタキシード風の洒落たスーツに蝶ネクタイと実にダンディーな正装に威儀を正していた。勿論、今日のこの愛武の弓枝への“愛の証”を立てる為の記念すべき日の為にバッチリと決まった格好を整えて来ていたのだった。

「おお!カッコいいじゃん!」奥の部屋の方に入って行くと出会い頭に弓枝が愛武の立派な出で立ちを誉めそやした。「どうも、有難う!何か照れるなぁ~!」愛武が真面目にそう言うと弓枝は奥に来るように手招きをした。「何で今日はそんなにカッコいい服装なの?何かあるの?」弓枝が少し疑うような眼差しで愛武を見詰めると愛武はタキシードの蝶ネクタイの両端を両手の指で摘んでキュウッと横に引っ張って形を整えて牽制のポーズを取った。

「実は今日は君に大事な話しがあるんだよ!だけどその話はここじゃなくて、後で食事しながら話したいな!」「今、話すのは無理なの?そういう言い方されちゃうとスゴク気になるんだけど!ねぇ、今話せない?」「でも、やっぱり、とても大事な話だから、きちんとした場所で話したいんだ!分かってくれよ!」

愛武が弓枝にそう言った時に、また例の如くザマス風伊達メガネがいかす感じでキラッと光ったのだった。

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次の日の出かける前に愛武は父親に会いに行く為に父親がいる書斎に向かった。書斎の扉を開くと、そこには黒い縁取りの臙脂色の天鵝絨のガウンを着た父親の姿があった。大きな黒いソファに腰掛けて口には細い煙の立っている巻き煙草を銜えていた。

「おお、来たか、そろそろ来なかったら、こちらからお前の向日葵の花だらけの部屋に行こうと思っていたぞ!」

そうなのだ、愛武は、向日葵の花の種を買わずに最初から向日葵が咲いている状態の成長しきったものを花屋から買い求め部屋に飾ったのだった。つまり、種の状態から成長するのを待つのが嫌だったのだ。勿論、その向日葵の中には造花もあった。

「言え、約束どおり、こちらから伺いました!」非常に礼儀正しく低姿勢に愛武が父親に会釈をした。父親は、口に銜えている煙草を灰皿に押し付けて擦り付けて煙を消す仕草をしてから、愛武の方に向き直った。

「それじゃ、今から行くのだな、彼女の所へ、よしよし、今、約束どおり、金を渡すから、ちょっと待ちなさい!」そう言うと書斎のちょうど右端の本棚の奥のほうの隠し扉のような場所から、金庫を取り出して来て、ガチャガチャと弄ってその蓋を開けた。そして、金庫から三つのの万札の束を取り出すと、腰掛けているソファの前のテーブルの上に置いた。

「さあ、これを持っていきなさい!」「本当に有難うお父さん!」「いいのだよ!息子よ頑張るのだよ!」「うん、僕、頑張るよ!」

愛武はこんなに嬉しい事は生まれて初めてだという笑顔満面で目の前のテーブルの上から三つのの万札の束を掴み取ると、その場から猛ダッシュで愛する女性、弓枝との待ち合わせの場所へ向かったのだ。“さあ、早く行かなくちゃ!”愛武は、そう思いながらも遅刻好きそうだった弓枝に待たされるかもとチラリと考えたりもしていた。例え、そうであっても恋する愛武は何時間だって弓枝が起きてくるのを待つつもりだったのだ。

今日の待ち合わせ場所は、弓枝の実家ビル前だった。

“いきなりプロポーズなんてしたら驚くだろうな!”そんな事が愛武の頭を過ぎっていた。だが、間違っても断られる事はないだろうと愛武は心から信じて疑っていなかった。

何と、愛武は、まだ弓枝と一回しか会った事がないと言うのに結婚を希望する程にその心中は真剣その物に燃え上がっていたのだ。もはや、愛武の心の中には弓枝しか住んでいないと言っても過言ではないだろう。弓枝と出会ってからのこの数日間に愛武の心の中に芽生えた赤い稲妻のようなエナジーの嵐は、もう誰にも止めることは出来ないのだ。

「父さん、僕、もう彼女なしでは生きていけないよ!彼女の事、死ぬほど好きなんだ!」愛武はそう言っている最中ずっと両手の拳を強く握り締め顎の下あたりでブルブルと震わせていた。顔は綺麗なピンク色に火照っていた。

「おぉ、おぉ、そうなのか、それほど好きなのか・・よしよし、分かったよ、可愛い息子の頼みだ!父さんが何とかしてやろう!」「本当に!!有難う、父さん、じゃあ、お願いしていいね!嬉しい、父さん本当に有難う!」「何を言っているんだ!父親として当然の事だよ!息子の未来の花嫁候補の為に必要な出費は何とかするのは父親としての責任だと思ってるからな、それにお前のそんなに真剣な目を父さんは初めてみたぞ!これは、何とかするしかないだろう!」「うん、じゃあ、よろしく頼むよ!」「じゃぁ、聞くが、幾ら入用なのかな?」父親は、ジッと愛武の顔を見据えて、そう厳かに問い正した。

「えと、・・それは、婚約指輪だから、やっぱり100万円はするかな・・・」「おぅ、おぅ、そうか、100万と言わず、300万でもいいぞ!大事な息子の一生の問題だからな!」「ええ、父さん!そんなにいいの?」「遠慮するなよ!一世一代の問題だ奮発してやる!」「わぁ~父さん、僕、頑張るよ!」「指輪を買う日が決まったら言いなさい!直ぐに用立ててやるぞ!」「だったら、サッソクだけど明日は駄目かな?明日、彼女に会うから、その時、買いに行こうと思うのだけど・・・無理かなぁ?」「嫌、大丈夫だ!無理じゃないぞ、明日出かける時、渡してやるから出かける前に父さんの所へ来なさい!」「はい、分かりました!父上!明日出かける前に伺いますので、よろしくお願いします!」

そして、実に素直に愛武は父親に一礼をした。

きっと、このまま待っていれば、事の成り行きに任せていれば、愛武は必ず再び三度と現れて自分の大切な親友の弓枝の事を雄々しくリードして立派にエスコートしてくれるに違いない。

楓は弓枝と、ここ4,5年の間ずっと友人関係を続けているが、常日頃から弓枝には立派なそれなりのタイプの男性と知合って幸せになって欲しいなと思っていたのだった。正にその弓枝に相応しい男性が目の前に現れたのだった。それが愛武だった。

そんな事を日記を書いている間から思い巡らせながら、暫くすると楓は自分のベッドに入ったのだった。ベッドに入ると直ぐに楓は眠りに就くことが出来た、そして、気づけば、楽しい夢の世界で遊んでいたのだった。その夢は、遠縁に当たり幼馴染である愛武と、ここ4,5年来の友人の弓枝と3人で楽しげに戯れて他愛無いお喋りに花を咲かせている内容だった。そして夜は更けていった。

―それから幾日かたったある日の事だ―

愛武が父親と二人で家の一階の縁側に座って語らっていた。「父さん僕、真面目に好きな女性が出来たんだよ!今度、家に連れて来るね!」「おお、そうか、それは良かったな、今度、会わせてくれる時が楽しみだよ!ところで、一体どんな女性なんだい?」「うん、とても素直で明るくていい子だよ!父さんも、きっと会ったら気に入ってくれると思うよ!」「ほうほう、そういう事なら今から会うのが楽しみだなぁ~!」「うん、明日会うから、もし家に連れて来れたら連れて来るね!」「おお、楽しみにしているよ!」「もし来たら、家族と皆で写真を撮ろうよ!」「おお、そうしよう!」「それからちょっと言いづらいけど、お願いしたい事があるんだけど・・」「おお、何だ言ってご覧!」

しばらく愛武は何かを思いつめた様に俯いていたが、暫くすると何かを強く決断したように顔をしっかりと上げて父親の方に向き直った。

「僕、その子の事、本当に好きになってしまったんだよ!だから婚約指輪をプレゼントしたいんだけど纏まったお金が無くて困っているんだよ!だから、父さんに相談に乗って欲しいんだ!」

楓が急に帰りたくなった原因はもう既に深夜の1時になっていたと言うのもその一つだが、夜の9時過ぎから現在に至るまで、色々な事があったので疲れてしまったのだ。と言ってもドンキホーテ新宿東口店でルイヴィトンのセカンドバッグを買ってから、北新宿のスーパーマイルでお鍋の具材を買い込んで弓枝の実家ビルの3階で作って食べただけだったが。

それでも楓なりに結構、気を使ったのでスッカリ心身ともに疲労困憊してしまったのだった。特に買い物の時は、男が突然怒って文句を言いはしないかとそればかりが心配で可也、気を揉んだのだった。

弓枝の実家ビルの近くの大通りからタクシーを捕まえてから自宅に帰ると楓は、直ぐに外出着からスウェットの上下の部屋着に着替え、自分の部屋の机に向かった。今日の外出着は、地味目の紺のブレザーとブラウスと、同じく紺色のスカートだった。机の前の椅子に腰掛けると、その引き出しから薄緑色の分厚い日記を取り出した。

それは間違いなく、この間の楓の誕生パーティーで幼馴染の愛武が楓に“これに毎日の出来事を書き留めて置くと良いと思ってね!多分この先、色んな事があると思うからさ・・”と言ってもう一つのプレゼントの綺麗な瑠璃色のオルゴールと共にプレゼントして来た物だった。

確かに愛武の言うとおり色んな出来事は起きたのだった。と言うか、今日の出来事は、これは序の口だと言っておこう。

ともかく、楓は愛武から貰った日記帳に今日の出来事を書こうと思い立ったのだった。机上のペン立てから黒い0.5mのピンペンを取り出すとスラスラと何かを日記帳に書き留めだした。

それは、このような内容だった。

『今日は夕方の5時過ぎに弓枝ちゃんの家に遊びに行って、それから伝言で沢山男の人を呼んで待ち合わせをしてその中から来た二人の男性と新宿東口のドンキホーテで弓枝ちゃんのお誕生日プレゼントを買って、その後北新宿のスーパーマイルでお鍋の具材を買って弓枝ちゃんの家で食べました。とても楽しかったです。だけど、本当は今日は弓枝ちゃんの誕生日ではありませんでした。だから何か少し複雑な気分でした。○月×日○曜日深夜1時20分』

そして日記帳を書き終えると、楓は“はぁ~っ!”と深いため息を一つ漏らしたのだった。やはり、思い出しても何かこう腑に落ちない点があるからだろう。

それは、何故、今日が弓枝お誕生日じゃないのにお祝いをしてくれる人を募集したかと言うのがまず一点と、もしも例え本当にお誕生日だとしても、または、そう思い込んだにしても何もあんな給料半月分程もする高額のプレゼントを初めて知合った女性にしてしまう男性の心理もよく分からないと言う点だった。そのことは、考えれば考えるほど、深い悩みの淵に嵌ってしまいそうなループの法則にも似ていた。

だが、その悩みからも、きっと、もうすぐ開放されるに違いなかった。少なくとも楓には、その事が分かっていた。だって、幼馴染の坊ちゃん刈りの貴公子、愛武が弓枝の事を選んだのだから、後は大船に乗ったつもりで全てを愛武に任せればいいのだから。

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