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それから少し時が経ち、いつしか愛武の健康状態と経済状態は、日に日に悪化して行き貧窮を極めるようになって行った。花のプリンスの麗しい美貌もいつの間にやら消えうせていた。いうまでもなく、そうなってしまったのは、全て弓枝の物質欲の強さによるおねだり攻撃の直撃をストレートに食らい続けたためだった。

いくら父が実業家でまあまあの金持ち家庭での育ちであっても、弓枝の求める金銭レベルの高さに追いつくのは、いつもやっとの思いだった。弓枝はお金の問題には非常に神経質な性質で、お金のことで激しく言い争う場面もここのところ増えて来ていた。

ある日など、愛武が弓枝がその時要求した物品を即座に購入する資金が不足しているために仕方なく断ると、その途端逆切れしたように弓枝が喚き散らしてきた。愛武が、いくら熱心に宥めても駄目で弓枝の感情がすぐに平静に静まることはなかった。そして、とうとう仕舞いにはお金がなくて今すぐ購入が無理だったらマンションを解約して戻って来た敷金で購入して欲しいという始末だった。

その時弓枝が欲しがった物は、毛皮のコートと着物とできたらそれプラス四駆のパジェロだった。

断ろうと思えば、断れると思うのだが、もしハッキリと断ったならその後暫くの間ずっと嵐のような殺伐とした険悪な状態が続くのは目に見えていた。

「分かった!マンションを解約するかどうかは分からないけど、何とかするよ!・・・あっ、それから、楓ちゃんから聞いたんだけど、この間あの子の部屋に弓枝ちゃんが遊びに行った時に、洋服が2,3着無くなっていたって聞いたけど本当なの?」

「えぇ~!何でそのことを知ってるのよ!へぇ~、それに楓と個人的に電話で話したりしているんだぁ~!あはは、笑っちゃう!ねぇ~、でもそれってさまるで私が盗んだに決まってるって
言い方ですごくむかつくんだけど、私そんなことしてないよ!謝ってよ!」

「言い方が悪かったなら謝るよ、ごめんね!決して本気で疑っている訳じゃないよ、ああ、でもそれからね、それ以外にも、この間知らない男の人から突然携帯に電話が来て、化粧品やエステ用品の請求が来たんだけど、どういうこと?僕の携帯番号を勝手に使ったのかな?!」

「知らないよ!それ私じゃないよ!他の女性じゃないの?」

「君がそういうならそうかもね、でも最近そういう変な電話が異常に増えて困っているんだよ!」

弓枝との会話も日増しに殺伐として行った。

金銭問題に関するトラブルが連続して巻き起こっていた。なので、愛武は、なるべく平静に穏便にその問題を解決しようと努めた。常に大人の男として振舞おうと努力したのだ。

結局、様々な金銭問題を一気に解決するためにマンションを引き払い、その敷金で諸々の支払いを済ませ、―
足りない分はサラ金で借りたり、恥ずかしながら頭を丁寧に下げて実業家である父親から援助してもらったのだ―愛武はあっという間にスッキリと身辺整理をしたのだった。

そして、最終的には、愛武の実家にも謎の色んな商品の請求書が届くようになった。その結果、愛武の実業家である父親がこう愛武に言い放ったのだ。「おまえと弓枝君とみんなで、ここで一緒に暮らせないかな?」愛武の父親の台詞は、もちろん金銭的に苦労が押し寄せてきている二人の暮らしぶりを心配してのことだた。

話はすぐに決まった。愛武と弓枝は、それから間もなく二人の家族や親戚や友人や知人を呼んで盛大に華やかに結婚式を都内近郊の結婚式場で挙げてから愛武の実家で一緒に暮らすこととなったのだ。

弓枝も金銭的に愛武より豊かな愛武の父親が住む実家で暮らした方が経済的にももっと優雅で楽しく生活できると思ったのだ。弓枝がどんなに我侭を言ったりキカンボであっても愛武は決して見放すことはしなかった。最後まで頑張り通して男として愛する女性に対する責任を果たしたのだった。

実家で皆で暮らすようになると何もかもが順調に運ぶ様になった。愛武のお父さんの事業もドンドン伸びて行った。そして、一時はあれほどヤツレタ愛武の麗しい美貌もまたいつの間にか蘇って元通りになったのだ。もうこれから先はお金に困っても“むじんくん”やサラ金に行かなくても良くなったのだ。もしお金に困ったらすぐに愛武のお父さんに相談をすれば良くなったのだ。また、父親の手前体調に悪いからと言われ、当然のことながら愛武は、夜の水商売の車の送りのバイトも辞めたのだった。

とても幸せな毎日で、愛武のお父さんもお母さんも二人とも弓枝に対して、とても親切で優しく常に思いやり溢れる態度なので、あまりの幸せに屡、突然、部屋の中で弓枝が嬉し泣きにしゃくりあげることもあった。もう二度とお金に苦しむことはないのだ。このままずっと幸せに愛武の実家で愛武と愛武の家族と皆で仲良く暮らしていけば、それで良いのだ。

愛武は、その後、タレントの仕事が次々入るようになり、人気もドンドン上がって行き、短期間でスターダムに伸し上がった。そして、その後ずっと弓枝は、今を時めく日本の人気スターの花嫁として華麗で美しく優雅で誰もが羨む夢のように幸せな生活を末永く送っていったのだ。(終)

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一人目の客はすぐに現れた。客の指し示す指の先の方向には、ちょっと古い感じがするが、まだ十分使えそう
なCDがあった。大きな汚れは目立たなかった。しっかりと透明なプラスチックのCDケースの中に商品は納まっていた。中が透き通って見えて、何やらエキゾチックな絵柄がCDにプリントされていた。

どんな音楽かは、今この場にCDプレーヤーがないので聴くことは出来ないのが残念だが、―おそらく邦楽の可能性が高いだろう―客はCDの中身の曲を確かめようとする気配も見せず、ソソクサトCDを手持ちバッグに仕舞い込んだ。無論、それと殆ど同時に紙で貼り付けてあった商品代金と同等の金額をフリーマーケットの主の弓枝に手渡していた。金額はピッタリ、500円だ。正確に言うと500円硬貨一枚を差し出したのだ。手馴れた動作でその500円硬貨を素早く金銭入れに投げ込んだ。―あとで全額計算してまとめるのだ―

出会いで知り合ったお手伝いの男は弓枝がCDを売っている間にトレーナーやブーツを売るのに成功していた。これはすごい業績だ。

ゴザやシートを敷いてその上に色んな商品をなるべく見栄え良く陳列するだけで商品がこれほど飛ぶように売れると言うのは、生まれてから初めてではなかったが―母方の田舎の実家や親戚の商売をしている家ではそういうのが当たり前だった―目の前で間近に見るとやはり、すごいと言うしかないだろう。ドンドン、売れていく、嬉しい悲鳴が沸きあがったのは言うまでもない。

「弓枝ちゃんって、フリーマーケットの才能があるね!」「そんなでもないけど、何故か、飛ぶように売れるね・・」「商品を陳列するだけで売れると言うのは得意技ですな」「弓枝ちゃんは、きっと商才があるんだよ、商売の道に進むといいよ!」「うん、でも、もう愛武と婚約しているから、愛武が商売をするんだったら一緒にするけど・・それ以外はわからないや・・・」「じゃあ、ご主人が、愛武が、商売をするのだったら、するってこと?こんなに向いているのに商売をしないなんて絶対に勿体無いよ!」「分かったよ!楓ちゃんやみんながそう言うなら、愛武に今度あった時、将来、商売の店を持てるようにお願いしてみるよ!」

そういう会話をしている間にも、フリーマーケットのゴザやシートの上の商品は次々売れていっていた。主にお手伝いの男が客の相手をしていた。生まれつきの天分というべきだろうか、見る見る間に商品は売りつくされ、フリーマーケットの売り上げは一気に上がっていった。

弓枝というこの女性と共に行動をしていけば、一生お金や物に困ることはないだろう。そして、それと同時に住まいや食物に困ることもないと思える。物質に関することで困ることはないだろうということだ。彼女の全身から物質や金銭を引き寄せるオーラのような物が沢山、溢れ出しているからだ。彼女について行けば、まず食いっぱぐれることはないだろう。

ただ、これには“ただし”の条件がつく。それは何かというと、二人の仲が順調で爽やかに礼儀正しく関わっている間はいいが、そこに特別な情の絡み合いや私利私欲の圧力や負担が掛かってくるとその限りではないと言うことだ。

では、上でお話した、「特別な情の絡み合いや私利私欲の圧力や負担」とは具体的にどのようなことを指し示すのだろう。

それは、例えば、自分の気分の赴くままにあれが欲しいとかこうしたいからあれを購入したいとふと思った時、それが、たまたま弓枝にとってまったく必要でなかったり、馬鹿らしい下らない存在だと思われている物だと、購入の申し入れを即座に却下されると同時に次第に剥れてご機嫌斜めになり、酷いと軽い―場合によっては重い―暴力行為に至るケースも出てくるということだ。

それほど、物事に対する価値観の白黒が日頃からハッキリとしており、必要がないものだと感じるとどんなに多くの収益を日頃上げていようが見向きもしないし、コンビを組んでいたり仲間であるものに対して少しも施そうとしないという手厳しさを持ち合わせていた。

食べ物も、本当に最低限度、やすいインスタントそばやうどんならありだったが、きちんとした物になるとすぐ、得意の誰かに奢らせようというのがいつものスタイルだ。

つまり、今までお話したフリーマーケットでの売り上げの天才ぶりも、決して鵜呑みにして期待しすぎてはいけないということなのだ。世の中そんなに甘くはないのだ。自分がいるから、自分のおかげで売れていると思っている以上は、その売り上げを他人の楽しみや喜び事に投資するということはまずなかった。

だが、そんな反面、ボランティア寄付金などは好きだという意外な一面もあった。世界的に認められた場所で善行をするのは本人にとって勲章にもなるから好きなのだろう。目立ちたがり屋という訳でもないだろうが、一時はタレントに真面目になりたいと考えた時期もあったので世界的に素晴らしい人と称えられることにはいくらでもお金を投資するのだろうと思う。

だが、彼女が女性的な優しさや潤いがまったくない干乾っびた女性でないことだけは、ここでハッキリさせておこう。見た目、目が常にウルウルとしており、希望に燃え立つようにホッペがホンノリ薄いピンク色に輝いていた。ハッキリ言えば容姿だけは完璧に人受けが良かった。愛され上手と思える容貌だと思う。そのため、何人に甘えようとも殆どその要求を呑んで貰えていた。男性だけでなく、女性も彼女の大きな甘えを暖かく全身で受け止めていた人達は過去から現在において非常に多た。

そして、決まって最後はみんながみんな草臥れ果て煤け、哀れでもう一度頑張ればとは、とても言えない状態に陥っていた。もしも、そこで“もう一度頑張れば”と言ったなら、それはある意味、死ねば・・・と言っているのと同じだからだ。

でもその過去から現在までのみんなの苦しみも次第に解放に向かっていくのは明らかだった。だって、楓の遠い親戚でもある幼馴染の親愛なる星のプリンスの愛武が弓枝のフィアンセになって全てを背負う決断をしたのだから。あとは、大船に乗ったつもりで全てのことを愛武に任せて行けばいいのだから。

結局フリーマーケットは短時間で殆ど売切れになってしまい、大盛況で大成功だった。正に万々歳だ!弓枝の商売の神様と言えるべき恐ろしい才能をここに垣間見たと思う。―確か、お手伝いや楓に報酬は一銭もなかった―このような商売だけの爽やかな関わりだけで後は背負うことももうないのだ。今までの辛いことや悲しいこと苦しみも全て終わり、新しい、弓枝と愛武の世界が開けるのだ。後は、彼らの前途をじっくりと見守って行く役目が待っているだけだ。

楓は二人の結婚式には是非、参加したいと心から思っていた。そして結婚式の会場で心からの祝辞を述べ、二人の前途や未来を祝い称えたいと思った。フリーマーケットの帰りのお手伝いの男が運転する軽トラックの中でみんなは寛ぎ談笑した。

だが、弓枝には報酬が入ったが他の二人には一銭もないというのは何か府に落ちない話だった。

愛武は弓枝とマンションの部屋で二人きりになれて、とても嬉しかった。何と言っても弓枝は愛武にとって大事なフィアンセだから。なので、二人でいる時間は、とても充実していて夢のように過ぎて行ったから。時間が経過し夜になると弓枝はそろそろ帰るから送って欲しいと愛武に頼んだ。

「えっ、ここに泊まるんじゃないの?」「うん、だってここは二人で過ごす場所だから、だって愛武はこれから夜のコンパニオンの送りの仕事でしょ・・・!私、一人でこんな広い部屋に過ごすのなんて寂しくて寂しくて・・・とてもじゃないけど無理・・・」

そう言いながら弓枝は、顔を両手で抱え込んでとても悩んでいるような表情をした。そしてマンションの部屋のカーペットの上にしゃがみ込んだ。

「広いって言っても、二つしか部屋はないよ、それに、もし、まだ時間があるんだったら、今日は僕、送りのバイトを休もうかと思ってたところだよ」すかさず、そう言い返す愛武の瞳はキラキラと星の王子様のように輝いていた。「でも、それだと困るじゃない!お金が入らなくなるでしょ、今日の分が・・・これから先、使うこといっぱいあるんだから働かないと駄目じゃない!」

そう言われてみればそうだ。これから、また、いつ何時どんな買い物の要求が弓枝からあるか分からないのだ。少しでも多く稼いでおかないとならないのは当然のことだ。

「分かったよ、本当にそうだと思う、君の言うとおりだよ!それじゃ、これから送りのバイトに行くね!」「うん、気をつけて行って来てね!」「あ、テーブルの上に合鍵置いておくから好きな時間に帰るといいよ!」「うん、分かった!有難う!」

そして愛武はTシャツを着てからジャケットをはおりジーンズを履くと颯爽と部屋から出て行った。

弓枝は、しばらく部屋の黒いソファの上で仮眠を取ると、明け方には起きて自分の家に戻った。愛武とはすれ違いだった。

弓枝が帰ってから暫くして愛武がマンションに帰ってくると、テーブルの上にメモが置いてあった。見ると文字が書かれており、こういう内容だった。『支払いのお金が足りないことに、さっき気づきました、もし都合がつくようだったら下に書く銀行口座番号に早急に5万円ほど振り込んでおいて下さい!××銀行 ○×△◎▼□◎ 弓枝より』送りのバイトのお給料日がくれば、これくらい何とかなるのは愛武にも分かっていた。

だが、今度のお給料日までは、まだまだ日があった。なので、愛武は愛するフィアンセ弓枝のためにむじんくんへ行こうと決断をしたのだ。青年実業家の父親にお金を借りるのは簡単なことだったが、これ以上スネをカジルノモ男としてみっともないことだと思ったからだ。

愛武は決心を固めると、送りのバイトから帰ってきたばかりのその足で近所のむじんくんへ小走りに向かったのだ。大事な未来の妻のために支払いの協力をするのは未来の夫として当然の役目だと愛武は心から思っていた。なので、心の命じるままに思ったとおりの行動を取ったのだ。

むじんくんで無事お金を5万円下ろすと愛武はすぐに今借りたばかりの5万円をメモに書いてあった弓枝の口座番号に振り込むためにコンビニのATMに向かった。コンビ二のATMは本当に便利だ。毎日24時間営業がざらだ。愛武は何も迷うことなくコンビ二のATMから即座に5万円を弓枝の銀行口座番号に振り込んだのだ。

今は明け方の5時頃だから、まだ外は朝日が昇りきらず、薄暗かった。ちょうど曇り空のような感じだ。

お金をATMに無事に振り込み終わると送りのバイトで疲れていたので愛武はさすがに眠くなって来た。“さあ、家に帰って風呂に入ったら寝るかぁ~!”思わずそう心の中でぼやいていた。

今、着ているジャケットの色は鶯色だった。その鶯色のジャケットが明け方の寒空にいっそう寒そうに震えているように見えた。その状態のまま愛武は、すぐにマンションの部屋に戻った。

“本当に僕の未来のお嫁さんはお金の掛かる子だな”愛武は心からそう思った。“ああ、こんなことじゃ先が思いやられる・・このままじゃいずれ破産してしまう・・”愛武はマジにそう思った。

人を本気で好きになると言うことは本当に素晴らしいことだと思う。だが、己を失ってまでお金を使い果たすことだけが愛情表現ではないだろう。本当に相手も自分のことを思っているなら、お金が空っぽになるほど使わすと言う事があるだろうか?真面目に考えるとそんなことあってはならないはずのことだと思える。そう思いながらも眠くて仕方なくなったので愛武は、いつの間にやらウトウトと眠りについてしまった。

そして、気づけば夢の世界にいた。夢の中で愛武は花婿衣装を着てこれまた花嫁姿―純白のウェディングドレス―の弓枝と共にバージンロードの上を歩いていた。舞台はチャペルの中だ。神父の前で二人は愛を誓い、口付けを交わしたのだ。その時、チャペルの外には真っ白な鳩が何羽か飛び交っていた。

―また、ある日のことだ―

フリーマーケット会場に弓枝と楓と昨日、出会い系で知り合った見知らぬ男の三人がいた。出会い系で昨日、“明日一緒にフリーマーケットに出かけてくれる人!”で募集をしたのだ。フリーマーケット会場には他にもたくさんの人が来ていて、ざわめき合い犇き合っていた。皆、それぞれがご自慢の手製の品や古くなっていらなくなった家具や雑貨や調度品を持ち合わせていた。

「売れると良いねぇ~!」「そうだねぇ~!片っ端からいっぱいいらないもの持ってきたから何点かは売れるでしょ!」
「じゃあ、シートの上にならべる?」

フリーマーケットで商品を展示するのに使うシートを出会い系で知り合った男はさっそく慣れた手さばきで展示スペースに持ち込み床の上にサッと広げると、その上に次々とフリーマーケット用に持ってきた様々なたくさんの品を実に手際よく並べ始めた。見れば、その品々の中には、アンチークなものからブランド物の洋服やブーツや雑貨類や雑誌やDVDなども入っていた。

「ねぇ、埃がついているものもあるかもしれないからみつけたらタオル渡すからそれで拭いてね!」

弓枝が持ってきたタオルを使い出会いで知り合った男がフリーマーケットの品で汚れが目立つものを見つけては丁寧に磨いた。なるべく商品を新品にみせるためだ。

「あっ、これ下さい!」

会えなくても弓枝にお金を支払う男は何も愛武だけではなかった。他にも一度でも弓枝と出会い一目惚れしてしまったり、名刺をすぐ渡してしまったために弓枝からいつ電話が職場にかかってくるか分からない者達は保身のために―誰しも職場は守りたい、荒らされたくないものだから―弓枝の指図されるまま最低一万円以上のお金―万札以外は弓枝は納得しなかったからだ―を指定された銀行の口座に一つ返事で振り込んでいた。

おそらく今でもその作業の輪は―一つの邪悪な煩悩の姿を象徴するような輪廻とでも言おうか―続いていると思う。一緒に出かける訳でもなく、食事をする訳でもなく、ましてや旅行をする訳でもないのに選ばれし者達は―それは最初は少人数だったが日増しに徐々に増えていった―順番に役割分担をし、次は俺が行く、みたいな感じで絶えることなく弓枝の電話一本で会えもしないのに万札を何枚か振り込んでいたのだ。

“また会って欲しい”とか、“今何所にいるの”とか、そんな当たり前の恋人同士のお互いの再会を願う会話やお互いの所在を確認する会話は、そこにはまったく存在していなかった。ただただ、何かを怯えるように、或いは、一種の諦めのような感情が無駄な争いはくだらないと悟らせたのか、ある時期になると集団で計画的にその活動は行われ続けた。

愛武は、一目惚れの初恋で早くも愛の幻想に気づき、不幸になったかのようだが、まだ、心の奥底には熱く滾る想いが残っていたからまだ良い方だ。それは、他の者達に比べたらマシだと言うべきだろうか。生まれつき育ちが良くお坊ちゃま育ちの愛武は、愛の幻想や空しさにに傷つかないですむように環境で守られていた。

つまり、あまりお金の苦労がないから本気で親にお願いすればある程度の資金繰りができたので、ちょっと贅沢好きな美女と知り合っても他の凡人の家庭で育った者達ほど切ない苦しい思いをすることがなかったからだ。また、その上スターオーディションに合格するほど容姿にも恵まれていたために相手が絶世の美女だろうがある程度は気持ちを獲得できた。

何もかもが男として恵まれ、将来も有望な愛武は、弓枝という一人の美女と出会い見事に見る見る間に転落して行った。その表現は少し大袈裟かもしれないが、何もかもそろっている人物でさえ弓枝に出会うと魔物に取り付かれたように己を忘れ溺れていったのは確かだった。

さらに説明を付け加えるなら、弓枝が楓と行動を共にしている時も、休まずその活動は続いていて、弓枝が遊ぶための軍資金がなくなると思い出したように、“白羽の矢”が当たった相手に電話をした。―もちろんそれは大勢の中の一人だ―すると選ばれたものは着信を拒否することは決してなく、必ず快くそれを一つ返事で受け入れ速攻で要求された金額を指定された銀行の口座番号に振り込んでいたのだ。

楓は弓枝と行動を共にする時、その活動を発見するたび、いつも新たな驚きと衝撃を隠しきれなかった。“男って美女に対してはこんなにもお金にだらしないものなのかしら・・”楓は、いつもそう思っていた。そして、そう感じていた。また、その感情は現在においても変わっていない。弓枝と出会いすぐにフィアンセまで昇格できた愛武は、最初は障害など何一つなく順調満帆のように見えた。

だが、いつの間にか気づけば婚約指輪を買わされ海外旅行に行き高価なブランド物をしこたま買わされ、その上二人でジックリとゆっくりと過ごせる空間を借りるとこまで行きながらその後は殆ど毎日朝から晩まで働く羽目になり―次々と続く弓枝の生まれつきの過剰な物質欲のために生じるおねだり攻撃のために資金繰りをするためだった―愛武の生まれつきの花のプリンスの凛々しいその容貌は見る影もなくやつれ果て色褪せていた。

人が変わったようにうらぶれて行く愛武の姿をもちろん親も心配したが、最近は殆どマンションで生活をしていたので親にその姿を見せることもなかったので、大きな干渉は受けずにすんでいた。―強いて言えば一度実家に帰りその変わり果てた姿をチラミさせたら、親が驚いた顔をしたが、その後なんとかうまく誤魔化して顔を合わさないようにして逃げていたのだ―

弓枝は、きっと今頃新しい獲物を見つけてその獲物をまるでメシアのように扱いたくさんの高価な貢ぎ物を献上させたり、オークションの手伝いをさせたり、自分を被写体として写真撮影のカメラマンにしたり、これまた大好きなフリーマーケットの手伝いをさせたりしているのだろう。

事実、愛武が朝も昼も夜も働いている間、弓枝はたくさんのメシアを見つけ奉仕の限りを尽くさせていたのだ。恋愛の延長に結婚はあるというが、最近では、いや大分前から恋愛と結婚は別だという考えも主流になって来ている。愛武は少し古臭いと思う人もいると思うが、弓枝に対しては一目惚れだったせいもあるが恋愛と結婚を一緒に考えていた。

そして、そのための準備を万全に整えるために弓枝に促されるまま高級マンションの一室まで借りたのだが、肝心の弓枝は借りた途端一向に訪れないばかりか―なんだかんだ用をつけては忙しいだの、その前にあれ買って、これ買ってばかりなのだ―酷いと一週間も二週間も連絡がなかった。

愛武から電話をかけても留守電のことが多くなっていた。留守番メッセージにメッセージを吹き込んでもすぐ返事が来なかったり無視をする回数も増えていった。もしも、真面目に結婚まで行かなかった場合、これは所謂結婚詐欺というべきだろう。

だが、今日初めてだが、やっと二人のために借りたマンションに来てくれるという、もう何もかもお仕舞いだとガッカリして決め付けるのはきっとまだ早過ぎるのだ。まだ、未来を期待する余地は十分に残されているのだ。全ては、これからなのだ。これから新しい二人の日々が始まろうとしているのだから。愛し合う二人だけのお熱い日々は今始まったばかりなのだから。

弓枝は予定通り愛武のマンションの部屋に着くとすぐに部屋の壁際にある大きな黒いソファに腰掛けた。ソファの上には薄緑と黄色のクッションがいくつか置かれてある。見ると壁にはスターのオーディションで受かった時もらった記念の額が飾られており、そのすぐ傍の小奇麗な木製の細長いお洒落なスツールの上には記念のトロフィーが置いてある。小さなブロンズ像が掲げられている素敵な栄誉あるトロフィーだ。

「わぁ~!すごい愛武そう言えば、スターになったんだよね!このトロフィーその記念でしょ!カッコいい!」「有難う!君ならそう言ってくれると思ったよ!」「私、いつかスターのお嫁さんになれるんだねぇ~!その日が楽しみ!」「安心してよ、もうすぐだよ!結婚資金ができるまで待てなかったら先に籍を入れたって僕の方は一向に構わないけど」「それじゃ、構わないけど~!出来たらもっと広い部屋に移る時ね!」「ええ、ここを借りるだけでも一苦労だったのに、これより広い部屋がいいの?」「出来たらね、でも無理だったらいいよ!ここでも、でも私の夢は別荘みたいなとこで暮らすことなの・・」

愛武はその時軽い眩暈を感じた。マンションを借りるまでが非常に大変だったのに、“もっと広い部屋が良い”と言われたためだった。さらに少々腹痛も覚えた。弓枝にそう言われたことが結構ショックだったのだ。ダンダンと結婚の話が遠のいて行くそう思うのは愛武の単なる勘違いだろうか。

別荘を一軒借りるとしたら、きっと相当な金額になるだろう。まして買うとなったら莫大な金額になるだろう。もし、それを本気で目指すとしたら朝から晩まで働く生活はこの先永久に続くと思われた。

「君のためだったら・・・」と言い掛けた途端、突然吐き気をもよおし、愛武は台所の流しに慌てて向かった。もう耐えられないくらいに全身に悪寒が駆け抜けていたのだ。気づけば愛武は流しでフィアンセの弓枝の前だろうがお構いなしに“ゲー、ゲー!”とゲロを吐いた。その時に、あまりに慌てたものだから、ブランド物のカッコいいブランド物のスウェットスーツにシッカリ、ゲロがひっかかってしまった。

愛武は待ち合わせ時間の15分前には、もう待ち合わせ場所に到着していた。今日の愛武の服装は、薄茶のトレンチコートで少し水色がかった変わった色のコートだ。暗くて思い水色とでもいおうか。冬の寒空にはそのコートの色がいっそう映えて引き立っている。

愛武は、さっきからずっと溜息をついていた。“まだ、くる訳ないよなぁ~!弓枝は遅刻の常習犯だからなぁ~!”そんな愚痴にも似た文句を愛武は、しきりに心の中で呟いていた。そうなのだ、弓枝が待ち合わせ時間ちょうどに来ることなんて今まで、ただの一度もないのだ。なので、そうぼやいてももっともなお話なのだ。

そして、それは、何も愛武との待ち合わせ時間だけではなかった。フィアンセ―今となっては形だけだが―との待ち合わせ時間もろくに守れない弓枝は、当然ながら他の知り合いや―その中には既に弓枝のメシアに成り下がっている者達もかなりの人数存在した―用事で会う人との待ち合わせ時間も守ることは、まったくと言って良いほどなかった。いや、皆無に等しいと言える。

愛武が現在いる弓枝との待ち合わせ場所は右斜め前方に砂場が見え、そこで子供が二人スコップを片手に楽しそうに遊んでいる姿が見える。その光景をずっとボォ~~ッと眺めている愛武の姿は、阿呆面を扱いているように見えてなんだか少し見っともない感じもする。他にすることもないというのがその理由だ。

「おにいちゃん!」砂場の二人いる子供のうち一人がスコップ片手に愛武に話しかけてきた。二人とも男の子の子供だ、きっと母親が後で迎えに来るのだろう。顔には砂が少しかかって汚れているところがとても子供らしくて愛らしい。「楽しいかい?」愛武は微笑みながら子供にそう返事をした。精一杯、温かい笑顔を送ったつもりだ。

それから愛武は、おそらく今すぐ来るはずもない弓枝をただ待っているだけでは退屈だと思ったので少し子供の相手をすることにした。つまり、暫し、子供二人と一緒に砂場で遊んだのだ。この方何年もしたことのない砂いじりをして遊んだ。久々に愛武はハシャイで楽しんだ。元来、愛武は子供好きで家庭的な温かい一面を持っており、将来パパになったらきっと良いお手本のような父親になるに違いない。

しかし、良い父親として歩む場合の相手、つまり、妻が弓枝かどうかというと少し疑問だ。何故と言われても、困る面もあるが、分かりやすくズバリ言えば、弓枝と付き合うようになって見る見る間に変わり果てた愛武の容貌にもそれは見て取れると思う。

このところ毎日朝から晩まで働きづめだったので愛武の髪の毛は少しボウボウになり、無精髭さえ生えている。毎日のように午前様で睡眠不足のせいだろうか?頬は少しこけ、目の下には、薄っすらと隈ができている。上げマンとか下げマンという言葉があるが、このような状態を見ても弓枝が上げマンの部類だとは到底思えない。仮に一時的に金運がよくなったとしてもそれはまやかしであり、その金の殆どが弓枝に流れて行くだけで金を稼いだ者の手元には雀の涙ほどの僅かな金額しか残らないのがいつものことだからだ。

それは愛武も例外ではなかった。働けど働けど我が暮らし楽にならずとよくいうが、愛武の昼と夜の仕事合わせた給料も給料日になると殆ど弓枝に吸われて無くなってしまっていた。給料日直前になると毎月決まったように弓枝から、あれこれと愛武は、催促やおねだりの攻撃に遭っていた。その金の殆どが弓枝の趣味のエステやお洒落用品、そして当然のことながらブランドの洋服やアクセサリーや他の友人と遊ぶ時の交際費に消えていた。

度重なるおねだり攻撃で、前に弓枝に頼まれて借りた二人でじっくりとゆっくり落ち着ける場所のマンションも時々家賃を払うのも苦しい時があるほどだ。さらに、付け足して言うならば、二人で会うために借りたのに、まだ一度も弓枝が訪れたことがなかったのだ。

だが、今日の待ち合わせで、やっと初めてマンションに来てくれるとのことだ。なので、愛武は今日こそはと少しは期待をしているのだった。きっと何か良いことがあると思ったかどうかというと謎だが。何しろ二人きりで部屋にいたとしても常に主導権は男性のほうでなくて女性である弓枝の方にあり、一緒にいる相手は男性、女性のどちらであろうとまるでメシアのように扱われ、丸腰の侍や赤子同然の状態だったからだ。

それは、分かり切っていても生まれつき美しい物が好きで面食いな愛武は、―まあ、人間誰しも美しいものは好きだ―明らかにメシア同然の状態が待ち受けていようとそれに立ち向かわずにはいられなかったのだ。少しでもいいから一分一秒たりとも美貌の鏡である弓枝の傍にいたかった。なるべく長時間、美と戯れたかったのだ。

子供達と砂場で遊ぶのも疲れ、一人待ち合わせ場所に戻った愛武は、遠くの方に目をやると黒い点が現れ、それがダンダン大きくなると、人の形に変わって行くのをハッキリと確認した。それは紛れもなく弓枝の姿だった。よく見ると右手を大きく上に真っ直ぐ伸ばして左右に振っていた。“私よ!”という合図なのだろう。そしてその姿は間もなく駆け足になっていた。見る見る間に大きくその姿が目の前に登場した。

「愛武!お待たせ!」今日の弓枝の格好はヘルメスのスカーフにシャネルのマークがはいったハーフコートだ。本当に弓枝はシャネルが大好きな女性だ。さらに付け加えるならば美貌があるせいだと思うが弓枝はシャネルがとてもよく似合う女性だ。外出時はシャネルの洋服を着ていることが本当に多い。アクセサリーももちろん好きでシャネルのアクセサリーをしている場合もあるが、最近ではショッピングフレンドの中の一人に買わせた金色のロレックスがお気に入りで今日もそれを右手首少し下あたりに嵌めている。

そのシャネルのロレックスは前に弓枝が接客のアルバイトをしている店で知り合ったお客の男性が買ってくれたものだ。何と、銀座のロレックスの本店で120万円もしたものだ。最初は60万円の時計を買う予定が銀座の本店に行ったら120万円に値段がつり上がったのだった。その男性はご苦労なことに弓枝のために毎月現金ばかりでなくカードも使い総額100万円を軽く買い物に使っていた。かなりな上級クラスのショッピングフレンドだと言わねばなるまい。しかし、彼も時間の問題で会うたび現金を手渡すだけの関係になっていた。酷い時は一緒に旅行に行くわけでもないのに弓枝が他の人と行く旅行の費用も全部銀行振り込みで払っていた。会えなくても大金を弓枝に支払っていた。

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